三角形の内心とは、三角形に内接する円の中心のことで、3つの辺までの距離が等しいという性質があります。
しかし作図する場合、三角形の内角の二等分線の交点によって求められます。
なぜ、3辺との距離が等しいという性質を利用せずに角の二等分線で作図するのでしょうか?
まずは三角形の内角の二等分線の交点が内心になることを確かめます。
上図の
△ABCに内角
∠A, ∠Bの二等分線を引き、その交点を
Iとします。
Iから3辺に向けて垂線を引き、その交点をそれぞれ
D, E, Fとします。
△AEIと△AFIに着目すると
∠AEI=∠AFI=90°なので2つの三角形は直角三角形です。
AIは共通の辺なのでAI=AIです。
また、AIは∠Aの二等分線なので∠IAE=∠IAFです。
したがって、斜辺と1組の鋭角がそれぞれ等しいので△AEIと△AFIは合同であり、IE=IFであることがわかります。
△BDIと△BFIに着目すると
∠BDI=∠BFI=90°なので2つの三角形は直角三角形です。
BIは共通の辺なのでBI=BIです。
また、BIは∠Bの二等分線なので∠IBD=∠IBFです。
したがって、斜辺と1組の鋭角がそれぞれ等しいので△BDIと△BFIは合同であり、ID=IFであることがわかります。
以上よりID=IE=IFが成り立つことがわかります。
ここで△CDIと△CEIに着目すると
∠BDI=∠AEI=90°より∠CDI=∠CEI=90°なので2つの三角形は直角三角形です。
先ほどの結論よりID=IEです。
共通の辺CIなのでCI=CIです。
したがって、斜辺とそれ以外の1組の辺がそれぞれ等しいので△CDIと△CEIは合同であり、∠ICD=∠ICE、すなわちCIは∠Cの二等分線であることがわかります。
以上より、三角形の3つの内角の二等分線はただ1点で交わることがわかります。
また、ID=IE=IFよりこの点Iは各辺までの距離が等しいので、Iを中心として三角形に内接する円を描くことができます。三角形の内接円の中心点とは、つまり内心のことです。
よって、三角形の3つの内角の二等分線の交点が内心になることを示すことができました。
次に各辺のどこから垂線を引けば内心を求めることができるのかを考えます。
△ABCの内心
Iから辺
BCへ垂線を下ろし、その足
Dが
BCをどのような比で分ける点となるかを調べます。このとき、
∠IBD=α,∠ICD=β,ID=rとします。ただし、
0°<α<90°,0°<β<90°,0°<α+β<90°
三角比より
tanα=rBD,tanβ=rCDなので、
BD=rtanα,CD=rtanβとなります。
したがって、点
Dは
BCを
BD:CD=rtanα:rtanβ=1tanα:1tanβ=tanβ:tanα
という比で分割します。また、
α,βの角度の条件より点
Dは必ず内分点となります。
α,βはそれぞれ∠B, ∠Cの半分の大きさを持つので、内心から各辺へ下ろした垂線の足の位置は三角形の内角の大きさにより決まることがわかります。特に垂線の足が辺の中点となるのはtanβ=tanα、すなわちβ=αのときで、これは少なくとも2つの内角の大きさが等しい三角形、二等辺三角形であるときです。
内心から3辺までの距離が等しいという性質を利用するとなると、距離は等しいというがどれくらいの長さなのか?そして辺のどの位置からの距離なのか?という問題が出てきます。
内心から辺へおろした垂線の足から内心の位置を特定しようとすると、三角形の内角の大きさを調べ、内心からの垂線の足がどこに位置することになるのかを計算してようやく作図することができます。
しかし、上で確かめた角の二等分線は必ず内心を通ることを利用した場合、測定や計算の必要もなく最低でも2本の内角の二等分線を引くだけで容易に内心の位置を知ることができます。