円周率πは無理数である。というのを習った、あるいは聞いた覚えがあると思います。
無理数とは
\[\frac{(整数)\quad}{(整数)\quad}\]
という形で表せない数のことです。逆にこの形で表せるものは有理数と呼ばれます。
例えば、0.5は$\dfrac{1}{2}$という形で表せるので有理数、$\sqrt{2}$は分数の形で表せないので無理数となります。
ここで円周率の定義について見てみると、
\begin{equation}(円周率)=\frac{(円周)\quad}{(直径)\quad}\end{equation}
となっています。一見、円周率は有理数じゃないのか!?と思えますが、半径と円に内接・外接する正多角形の周の長さとの関係から矛盾していないことを予測してみようと思います。
矛盾していないことをどうやって示すかというと、(1)の右辺が無理数であることを確かめてみようと思います。
無理数であるならば、右辺の分母と分子の少なくとも一方が無理数であるということです。
なので、円の半径と円周の代わりに円に内接・外接する正多角形の周の長さが有理数と無理数のどちらになるかの傾向を見て円周率が無理数になることを予測してみようというのが、この記事の趣旨です。
円に内接する正多角形
半径が有理数である場合
円に内接する正多角形の周の長さを求める式は、別の記事で作りました。それは以下のようになります。
\begin{equation}\begin{aligned}L_{ni}&=2nr\sin\frac{180^{\circ}}{n}\\
&=2nr\sqrt{\frac{1-\cos\frac{360^{\circ}}{n}}{2}}\\
&(L_{ni}:多角形の周の長さ,n=3,4,5,\ldots:頂点の数,r:半径)\end{aligned}\end{equation}
ここで、右辺のnは3以上の自然数なので有理数、半径rも有理数の場合を見るので2nrは有理数となります。
このことから左辺が有理数か無理数かを決めるのは、右辺に残る$\sin\dfrac{180^{\circ}}{n}$のみによることになります。なので、わかりやすいように半径は1とします。
では、正多角形の頂点の数nと$\sin\dfrac{180^{\circ}}{n}$の関係を見ていきます。
\begin{align*}n=3(正三角形)&\\
\sin60^{\circ}&=\underline{\frac{\sqrt{3}}{2}}\\ n=4(正方形)&\\
\sin45^{\circ}&=\underline{\frac{\sqrt{2}}{2}}\\ n=5(正五角形)&\\
\sin36^{\circ}&=\underline{\sqrt{\frac{5-\sqrt{5}}{8}}}\\
n=6(正六角形)&\\ \sin30^{\circ}&=\underline{\frac{1}{2}}\\
n=8(正八角形)&\\
\sin\frac{45^{\circ}}{2}&=\sqrt{\frac{1-\cos45^{\circ}}{2}}\\
&=\underline{\frac{\sqrt{2-\sqrt{2}}}{2}}\\ n=10(正十角形)&\\
\sin\frac{36^{\circ}}{2}&=\sqrt{\frac{1-\cos36^{\circ}}{2}}\\
&=\underline{\frac{1-\sqrt{5}}{4}}\\ n=12(正十二角形)&\\
\sin\frac{30^{\circ}}{2}&=\sqrt{\frac{1-\cos30^{\circ}}{2}}\\
&=\underline{\frac{\sqrt{2-\sqrt{3}}}{2}}\end{align*}
正六角形の場合は有理数になっていますが、上に挙げたものだけでも多くの多角形の周の長さは無理数になることがわかるかと思います。円を正無限角形とみなせば、半径が有理数のとき、円周は無理数になることが予想されます。
したがって(1)より
\[\frac{(円周)\quad}{(直径)\quad}=\frac{(無理数)\quad}{(有理数)\quad}=(無理数)\]
であるため、円周率は無理数となることが予想されます。
周の長さが有理数の場合
(2)の式を変形して、直径2rを求める式にします。
\begin{equation}2r=\frac{n}{L_{ni}\sin\frac{180^{\circ}}{n}}\end{equation}
nも$L_{ni}$も有理数であるので、直径が有理数か無理数かを決めるのは$\dfrac{1}{\sin\dfrac{180^{\circ}}{n}}$であることになります。
前述の通り$\sin\dfrac{180^{\circ}}{n}$は多くの正多角形で無理数となります。無理数の逆数も無理数なので、(1)より
\[\frac{(円周)\quad}{(直径)\quad}=\frac{(有理数)\quad}{(無理数)\quad}=(無理数)\]
であるため、円周率は無理数となることが予想されます。
円に外接する正多角形
半径が有理数の場合
こちらも別の記事で、円に外接する正多角形の周の長さを求める式を作りました。それは以下のようになります。
\begin{equation}\begin{aligned}L_{no}&=2nr\tan\frac{180^{\circ}}{n}\\
&=2nr\frac{\sin\frac{360^{\circ}}{n}}{1+\cos\frac{360^{\circ}}{n}}\\
&(L_{no}:多角形の周の長さ,n=3,4,5,\ldots:頂点の数,r:半径)\end{aligned}\end{equation}
ここで2nrは有理数であるため、正多角形の周の長さ$L_{no}$が有理数か無理数かを決めるのは、残る$\tan\dfrac{180^{\circ}}{n}$の部分となります。なので、半径は1とします。
では、正多角形の頂点の数nと$\tan\dfrac{180^{\circ}}{n}$の関係を見ていきます。
\begin{align*}n=3(正三角形)&\\
\tan60^{\circ}&=\underline{\sqrt{3}}\\
n=4(正方形)&\\\tan45^{\circ}&=\underline{1}\\ n=5(正五角形)&\\
\tan36^{\circ}&=\underline{\sqrt{5-2\sqrt{5}}}\\ n=6(正六角形)&\\
\tan30^{\circ}&=\underline{\frac{\sqrt{3}}{3}}\\ n=8(正八角形)&\\
\tan\frac{45^{\circ}}{2}&=\frac{\sin45^{\circ}}{1+\cos45^{\circ}}\\
&=\underline{\sqrt{2}-1}\\ n=10(正十角形)&\\
\tan\frac{36^{\circ}}{2}&=\frac{\sin36^{\circ}}{1+\cos36^{\circ}}\\
&=\underline{\frac{\sqrt{25-4\sqrt{5}}}{5}}\\ n=12(正十二角形)&\\
\tan\frac{30^{\circ}}{2}&=\frac{\sin30^{\circ}}{1+\cos30^{\circ}}\\
&=\underline{2-\sqrt{3}}\end{align*}
正方形の場合が有理数となっていますが、多くの多角形の周の長さは無理数になることがわかります。円を正無限角形とみなせば、半径が有理数のとき、円周は無理数になることが予想されます。
したがって(1)より、
\[\frac{(円周)\quad}{(直径)\quad}=\frac{(無理数)\quad}{(有理数)\quad}=(無理数)\]
となるため、円周率は無理数になることが予想されます。
周の長さが有理数の場合
(4)の式を変形して、直径2rを求める式にします。
\begin{equation}2r=\frac{n}{L_{no}\tan\frac{180^{\circ}}{n}}\end{equation}
nと$L_{no}$は有理数なので、直径が有理数か無理数かを決めるのは$\dfrac{1}{\tan\frac{180^{\circ}}{n}}$であることになります。
前述の通り$\tan\dfrac{180^{\circ}}{n}$は多くの正多角形で無理数となります。無理数の逆数も無理数なので、(1)より
\[\frac{(円周)\quad}{(直径)\quad}=\frac{(有理数)\quad}{(無理数)\quad}=(無理数)\]
であるため、円周率は無理数となることが予想されます。
以上から、半径か周の長さのいずれか一方が有理数である場合、もう一方は無理数になる可能性が高く、結果として円周率は無理数である可能性が高いことがわかります。
Share: