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2023年11月9日

中点連結定理の拡張の考察

 中点連結定理を利用して次の性質を導くことができるでしょうか?

性質$\text{(I)}$:$△\text{ABC}$の2辺$\text{AB, AC}$上にそれぞれ$\text{AP}:\text{AB}=\text{AQ}:\text{AC}=m:n$ (ただし$m, n:$正の実数、$m\neq n$)となる点$\text{P, Q}$をとり、これらを結んだ線分$\text{PQ}$は辺$\text{BC}$と$\text{PQ}//\text{BC, PQ}:\text{BC}=m:n$という関係をもつ。

性質$\text{(I)}$は成り立つか?

 性質$\text{(I)}$が成り立つかを示すには$m, n$の条件を中点連結定理の”$m=1, n=2$”から”$m, n:$正の実数”まで段階的に拡張していきます。

$m, n$が自然数の場合

 $m, n$が自然数の場合を考えます。
まずは$m=1$のときを考え、任意の自然数$m, n$でも成り立つかを調べてみます。

例として$m=1, n=3$のときを考えます。
 線分$\text{PB, QC}$それぞれの中点を$\text{R, S}$とすると、$\text{AP}=\text{PR}=\text{RB, AQ}=\text{QS}=\text{SC}$が成り立ちます。
$△\text{ARS}$に着目すると、三角形の中点連結定理より
\begin{align}\text{PQ}&//\text{RS}\\[1em]\text{PQ}:\text{RS}&=1:2\end{align}
です。
また、四角形$\text{PQSR}$に着目すると$(1)$より台形であることがわかります。
辺$\text{PR, QS}$それぞれの中点を$\text{T, U}$とすると、台形の中点連結定理と$(2)$より
\begin{align}\text{PQ}&//\text{TU}//\text{RS}\\[1em]\text{TU}&=\frac{\text{PQ}+\text{RS}}{2}=\frac{3}{2}\text{PQ}\end{align}
となります。
再び$△\text{ABC}$に着目すると、点$\text{T, U}$はそれぞれ辺$\text{AB, AC}$の中点であるため、三角形の中点連結定理より
\begin{align}\text{TU}&//\text{BC}\\[1em]\text{TU}:\text{BC}&=1:2\end{align}
となります。
$(3), (5)$より
\[\text{PQ}//\text{BC}\]
$(4), (6)$より
\begin{align*}\frac{3}{2}\text{PQ}:\text{BC}&=1:2\\[0.5em]\text{PQ}:\text{BC}&=\frac{2}{3}:2\\[0.5em]&=1:3\end{align*}
であることがわかります。これは$m=1, n=3$における性質$\text{(I)}$です。

 $n\geqq4$である任意の自然数$n$においても上と同様に三角形または台形の中点連結定理を利用することで、
\[\text{PQ}//\text{BC, PQ}:\text{BC}=1:n\quad(n:自然数, n\neq1)\tag{I'}\]
を得ることができます。
また、$m\geqq2$の任意の自然数$m$の場合は$\text{AP}_0:\text{AP}:\text{AB}=\text{AQ}_0:\text{AQ}:\text{AC}=1:m:n$となるように新たに点$\text{P}_0, \text{Q}_0$をとり、$\text{AP}_0:\text{AP}=\text{AQ}_0:\text{AQ}=1:m$と$\text{AP}_0:\text{AB}=\text{AQ}_0:\text{AC}=1:n$の場合の結果から
\[\text{PQ}//\text{BC, PQ}:\text{BC}=m:n\quad(m, n:自然数, m\neq n)\tag{I''}\]
を得ることができます。
$\text{(I'')}$は性質$\text{(I)}$の$m, n$を自然数に限定したものです。

 さらに$m, n$が正の有理数の場合、$rm, rn$が自然数となるような数$r$が存在する、すなわち$rm:rn$とすれば整数比に直すことができます。したがって、$\text{(I'')}$を満たします。

ここまでで性質$\text{(I)}$の成り立つ$m, n$を正の有理数まで拡張することができました。


$m, n$が正の無理数の場合

 $m, n$が正の無理数の場合にも性質$\text{(I)}$が成立するかについては考察となります。
この場合、$m, n$が正の有理数の場合のように必ずしも整数比$rm:rn$となるような数$r$が存在するわけではありません。
そこで、指数関数$y=a^x$の無理数$x$の場合の$y$を調べるときと似た方法をとるものと考えられます。

 例として$m=1, n=\sqrt{2}$の場合を考えます。
次のような数列を考えます。
\begin{align*}a_1&=1\\[0.5em]a_2&=1.4\\[0.5em]a_3&=1.41\\ &\vdots\\ a_{10}&=1.414213562\\ &\vdots\end{align*}
この数列$a_i$は初項が$1$で$i$の値が$1$増えるごとに小数点以下の桁が1つ増え、
\[\lim_{i\to\infty}a_i=\sqrt{2}\]
である数列です。また、$10^{i-1}a_i$は整数となります。

この数列をもちいて$△\text{ABC}$の2辺$\text{AB, AC}$上にそれぞれ$\text{AP}:\text{AB}=\text{AQ}:\text{AC}=1:a_i$となる点$\text{P, Q}$をとったとき$1:a_i$は整数比$10^{i-1}:10^{i-1}a_i$に直せるため、$\text{(I'')}$より
\begin{equation}\text{PQ}//\text{BC, AP}:\text{AB}=\text{AQ}:\text{AC}=\text{PQ}:\text{BC}=1:a_i\end{equation}
が成り立ちます。
そして、$i$を限りなく大きくすることで$(7)$は
\[\text{PQ}//\text{BC, AP}:\text{AB}=\text{AQ}:\text{AC}=\text{PQ}:\text{BC}=1:\sqrt{2}\]
に収束していきます。
このことから$m=1, n=\sqrt{2}$において性質$\text{(I)}$が成り立つといえるようになります。
他の無理数$n$でも同様に行うことで$m=1$かつ任意の無理数$n$の場合、$\text{(I')}$が成り立つといえるようになります。

 $m$も任意の無理数である場合は$m, n$が自然数の場合と同様に$\text{AP}_0:\text{AP}:\text{AB}=\text{AQ}_0:\text{AQ}:\text{AC}=1:m:n$(ただし$1<m<n$)または$\text{AP}_0:\text{AP}:\text{AB}=\text{AQ}_0:\text{AQ}:\text{AC}=1:rm:rn$(ただし$1<rm<rn$、$r:$任意の実数)となるように新たに点$\text{P}_0, \text{Q}_0$をとれば、$m, n$が無理数の場合でも性質$\text{(I)}$が成り立つといえるようになります。

上の考察が正しいならば、性質$\text{(I)}$が成り立つということになります。

性質$\text{(I)}$の逆は成り立つか?

 性質$\text{(I)}$が成り立つとして、その逆、すなわち
性質$\text{(I)}$の逆:「$△\text{ABC}$の2辺$\text{AB, AC}$上にそれぞれ点$\text{P, Q}$をとったとき、線分$\text{PQ}$について
\begin{align*}\text{PQ}&//\text{BC}\\[1em]\text{PQ}:\text{BC}&=m:n\\ &&(ただしm, n:正の実数;m\neq n)\end{align*}
が成り立つならば点$\text{P, Q}$は$\text{AP}:\text{AB}=\text{AQ}:\text{AC}=m:n$を満たす。」
は成り立つでしょうか?
それは以下のように確かめることができます。
辺$\text{AB, AC}$上にそれぞれ
\begin{equation}\text{AP}:\text{AR}=\text{AQ}:\text{AS}=m:\frac{n}{2}\end{equation}
となるように点$\text{R, S}$をとります。
$△\text{ARS}$に着目すると性質$\text{(I)}$より
\begin{align}\text{PQ}&//\text{RS}\\[1em]\text{PQ}:\text{RS}&=m:\frac{n}{2}\end{align}
が成り立ちます。
次に$△\text{ABC}$に着目すると仮定と$(9), (10)$より
\begin{align*}\text{PQ}&//\text{RS}//\text{BC}\\[1em]\text{PQ}:\text{RS}:\text{BC}&=m:\frac{n}{2}:n\end{align*}
特に
\begin{align*}\text{RS}//\text{BC}\\[1em]\text{RS}:\text{BC}&=1:2\end{align*}
に着目すると中点連結定理の逆より
\begin{equation}\begin{aligned}\text{AR}:\text{AB}=\text{AS}:\text{AC}&=1:2\\[0.5em]&=\frac{n}{2}:n\end{aligned}\end{equation}
が成り立ちます。
したがって、$(8), (11)$より
\begin{align*}\text{AP}:\text{AR}:\text{AB}=\text{AQ}:\text{AS}:\text{AC}&=m:\frac{n}{2}:n\\[0.5em]\therefore \text{AP}:\text{AB}=\text{AQ}:\text{AC}&=m:n\end{align*}
なので、性質$\text{(I)}$の逆が成り立つことがわかります。

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