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2024年7月24日

複素数の偏角とarg・Arg

複素数の偏角

複素数の偏角
 $0$でない複素数$z$の偏角は複素数平面上の実軸の正の部分から原点と点$z$を結ぶ線分である動径まで反時計回りを正として測った角(一般角)のことです。$0$の偏角は定義できません。

複素数$z$の偏角にはその動径が表す角度すべてが当てはまるので、動径の表す角度の1つを$θ$としたならばそれに$2\pi$の整数倍を加えたもの、すなわち$θ+2n\pi$($n:$整数)で表される角度すべてが複素数$z$の偏角となります。
したがって、複素数$z$の極形式が$z=re^{iθ}$であるならば
\[z=re^{i\theta}=re^{i(\theta+2n\pi)}\quad(n:整数)\]
が成り立ちます。
$-\pi<θ\leqq\pi$または$0\leqqθ<2\pi$となるようにとった$θ$のことを主値といい、これをもちいることで動径の表す角度をただ1つに決めることができます。
複素数$z$の偏角を$z$をもちいて表すと$\arg z$で、上述より
\[\arg z=\theta+2n\pi\tag1\]
あるいは合同式により
\[\arg z\equiv\theta\pmod{2\pi}\tag*{(1)'}\]
となり、複数の値をもちます。
複素数$z$の偏角の主値$θ$を$z$をもちいて表す場合は大文字$\text{A}$の$\text{Arg}\ z$で表し、
\[\text{Arg}\ z=\theta\]
となります。
すなわち、$\arg$と$\text{Arg}$の関係は$(1)$より
\[\arg z=\text{Arg}\ z+2n\pi\]
と書けます。

偏角の性質

偏角の和

複素数の積と偏角の和
 $0$でない2つの複素数$z_1=r_1e^{iθ_1},z_2=r_2e^{iθ_2}$の積について
\begin{align*}z_1z_2&=r_1e^{i\theta_1}\cdot r_2e^{i\theta_2}\\[0.5em]&=r_1r_2e^{i(\theta_1+\theta_2)}\end{align*}
が成り立ちます。
この点のみを見れば
\[\arg(z_1z_2)=\arg z_1+\arg z_2\tag{*}\]
が成り立ちそうですが、必ずしも成り立つわけではありません。
上述の複素数の性質より
\begin{align*}z_1z_2=r_1e^{i(\theta_1+2k\pi)}\cdot r_2e^{i(\theta_2+2l\pi)}&=r_1r_2e^{i\bigl\{(\theta_1+\theta_2)+2m\pi\bigr\}}\\ &\qquad(k,l,m:整数)\end{align*}
でも成り立ちます。これは$m=k+l$でない場合、すなわち$(*)$が成立しない場合も存在するということです。
$\arg(z_1z_2)$に着目すると
\begin{align*}\arg(z_1z_2)&=(\theta_1+\theta_2)+2m\pi\\[0.5em]&=(\theta_1+2k\pi)+(\theta_2+2l\pi)-2k\pi-2l\pi+2m\pi\\[0.5em]&=(\theta_1+2k\pi)+(\theta_2+2l\pi)+2(m-k-l)\pi\\[0.5em]&=\arg z_1+\arg z_2+2(m-k-l)\pi\end{align*}
$m-k-l=n$とおくと
\[\arg(z_1z_2)=\arg z_1+\arg z_2+2n\pi\quad(n:整数)\tag2\]
となります。
これを合同式で書けば
\[\arg(z_1z_2)\equiv\arg z_1+\arg z_2\pmod{2\pi}\tag*{(2)'}\]
となります。
$\text{Arg}\ z_1=θ_1,\text{Arg}\ z_2=θ_2$であるとき、その和は主値の範囲を超えることがあるので
\[\text{Arg}\ z_1+\text{Arg}\ z_2=\text{Arg}(z_1z_2)+2n\pi\quad(n=-1,0,1)\]
($n=-1$は主値を$-\pi<\text{Arg}\ z\leqq\pi$とした場合のみ)
となり、合同式では
\[\text{Arg}\ z_1+\text{Arg}\ z_2\equiv\text{Arg}(z_1z_2)\pmod{2\pi}\]
と書けます。

偏角の差

複素数の商と偏角の差
 $0$でない2つの複素数$z_1=r_1e^{iθ_1},z_2=r_2e^{iθ_2}$の商について
\begin{align*}\frac{z_1}{z_2}&=\frac{r_1e^{i\theta_1}}{r_2e^{i\theta_2}}\\[0.5em]&=\frac{r_1}{r_2}e^{i(\theta_1-\theta_2)}\end{align*}
が成り立ちます。このとき偏角の差$\theta_1-\theta_2$は$\theta_2$を表す動径から$\theta_1$を表す動径まで反時計回りを正として測った一般角となります。
偏角の和と同様、複素数の性質より
\begin{align*}\frac{z_1}{z_2}=\frac{r_1e^{i(\theta_1+2k\pi)}}{r_2e^{i(\theta_2+2l\pi)}}&=\frac{r_1}{r_2}e^{i\bigl\{(\theta_1-\theta_2)+2m\pi\bigr\}}\\ &\qquad(k,l,m:整数)\end{align*}
が成り立つので、
\begin{align*}\arg\frac{z_1}{z_2}&=(\theta_1-\theta_2)+2m\pi\\[0.5em]&=(\theta_1+2k\pi)-(\theta_2+2l\pi)-2k\pi+2l\pi+2m\pi\\[0.5em]&=(\theta_1+2k\pi)-(\theta_2+2l\pi)+2(m-k+l)\pi\\[0.5em]&=\arg z_1-\arg z_2+2(m-k+l)\pi\end{align*}
$m-k+l=n$とおけば
\[\arg\frac{z_1}{z_2}=\arg z_1-\arg z_2+2n\pi\quad(n:整数)\tag3\]
となり、合同式では
\[\arg\frac{z_1}{z_2}\equiv\arg z_1-\arg z_2\pmod{2\pi}\tag*{(3)'}\]
と書けます。
$\text{Arg}\ z_1=θ_1,\text{Arg}\ z_2=θ_2$であるとき、その差は主値の範囲を超えることがあるので
\[\text{Arg}\ z_1-\text{Arg}\ z_2=\text{Arg}\ \frac{z_1}{z_2}+2n\pi\quad(n=-1,0,1)\]
($n=1$は主値を$-\pi<\text{Arg}\ z\leqq\pi$とした場合のみ)
となり、合同式では
\[\text{Arg}\ z_1-\text{Arg}\ z_2\equiv\text{Arg}\frac{z_1}{z_2}\pmod{2\pi}\]
と書けます。

偏角の整数倍

複素数の累乗と偏角の整数倍
 $0$でない複素数$z=re^{iθ}$の累乗について、ド・モアブルの定理により
\begin{align*}z^k&=\left(re^{i\theta}\right)^k\\[0.5em]&=r^k e^{i(n\theta)}&(k:整数)\end{align*}
が成り立ちます。
偏角の和と同様、複素数の性質より
\begin{align*}z^k=\left(re^{i(\theta+2l\pi)}\right)^k&=r^k e^{i\left\{(k\theta)+2m\pi\right\}}\\ &\qquad(l,m:整数)\end{align*}
が成り立つので、
\begin{align*}\arg z^k&=(k\theta)+2m\pi\\[0.5em]&=k(\theta+2l\pi)-2kl\pi+2m\pi\\[0.5em]&=k(\theta+2l\pi)+2(m-kl)\pi\\[0.5em]&=k\arg z+2(m-kl)\pi\end{align*}
$m-kl=n$とおけば
\[\arg z^k=k\arg z+2n\pi\quad(n:整数)\tag4\]
となり、合同式では
\[\arg z^k\equiv k\arg z\pmod{2\pi}\tag*{(4)'}\]
と書けます。
$\text{Arg}\ z=θ$であるとき、その整数倍は主値の範囲を超えることがあるので
\[n\text{Arg}\ z=\text{Arg}\ z^n+2n\pi\quad(n:整数)\]
となり、合同式では
\[n\text{Arg}\ z\equiv\text{Arg}\ z^n\pmod{2\pi}\]
と書けます。

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