「三角関数 半角の公式」で紹介した$\tan$の半角の公式
\begin{equation}\tan\frac{\theta}{2}=\pm\sqrt{\frac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}}\end{equation}
には$\tan\dfrac{θ}{2}$が定義できるすべての実数$θ$において恒等な変形
\[\tan\frac{\theta}{2}=\frac{\sin\theta}{1+\cos\theta}\]
が存在しますが、恒等でない変形も存在します。
$(1)$の右辺は平方根の計算法則より
\[\pm\sqrt{\frac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}}=\pm\frac{\sqrt{1-\cos\theta}}{\sqrt{1+\cos\theta}}\]
となります。
分母と分子に$\sqrt{1-\cosθ}$を掛けると(ただし$\sqrt{1-\cosθ}\neq0$、すなわち$θ\neq2n\pi;$
$n$:整数)
\begin{align*}\tan\frac{\theta}{2}&=\pm\frac{\sqrt{1-\cos\theta}}{\sqrt{1+\cos\theta}}\cdot\frac{\sqrt{1-\cos\theta}}{\sqrt{1-\cos\theta}}\\[0.5em]&=\pm\frac{\sqrt{(1-\cos\theta)^2}}{\sqrt{1-\cos^2\theta}}\\[0.5em]&=\pm\frac{|1-\cos\theta|}{\sqrt{1-\cos^2\theta}}\end{align*}
三角関数の相互関係$\sin^2θ+\cos^2θ=1$より$\sin^2θ=1-\cos^2θ$なので
\begin{align*}\tan\frac{\theta}{2}&=\pm\frac{|1-\cos\theta|}{\sqrt{\sin^2\theta}}\\[0.5em]&=\pm\frac{|1-\cos\theta|}{|\sin\theta|}\end{align*}
$1-\cosθ$はすべての実数$θ$において常に$0$以上なので
\[\tan\frac{\theta}{2}=\pm\frac{1-\cos\theta}{|\sin\theta|}\]
となります。
$\tan\dfrac{θ}{2}>0$となる$2n\pi<θ<(2n+1)\pi$において$\sinθ>0$なので
\[\tan\frac{\theta}{2}=\frac{1-\cos\theta}{\sin\theta}\]
$\tan\dfrac{θ}{2}<0$となる$(2n+1)\pi<θ<2(n+1)\pi$において$\sinθ<0$なので
\begin{align*}\tan\frac{\theta}{2}=-\frac{1-\cos\theta}{-\sin\theta}\\[0.5em]&=\frac{1-\cos\theta}{\sin\theta}\end{align*}
以上より$\tan\dfrac{θ}{2}=0$以外の$\tan\dfrac{θ}{2}$の値が定義できる任意の実数$θ$において
\[\tan\frac{\theta}{2}=\frac{1-\cos\theta}{\sin\theta}\]
と表せることがわかります。
$\tan\dfrac{θ}{2}=0$を含まないのは、変形の条件により除かれた$θ=2n\pi$が$\tan\dfrac{θ}{2}$の値が$0$となるすべての$θ$であるためです。
($θ=2n\pi$を$\tan\dfrac{θ}{2}$に代入すると
\[\tan\frac{2n\pi}{2}=\tan n\pi=0\]
となり、$n\pi$は$\tan$の値が$0$となる実数をすべて表すことができます。)
したがって、この等式は成立する$θ$に$\tan\dfrac{θ}{2}=0$となる$θ=2n\pi$を含まないので、$\tan\dfrac{θ}{2}$の値が定義できるすべての実数$θ$においては恒等でない等式となります。
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