(以降、狭義の台形の中の等脚台形を狭義の等脚台形、広義の台形の中の等脚台形を広義の等脚台形と呼ぶことにします。)
すると、「脚の長さが等しい台形」は狭義の台形においては等脚台形のみを指して平行四辺形は含まれませんが、広義の台形においては等脚台形と平行四辺形の両方を指すことになってしまいます。
この四角形を利用すると、「1辺の両端の内角の和は$180°$」という性質がある平行四辺形は”ほぼ”取り除かれ、狭義の等脚台形との齟齬が最小に抑えられています。
狭義の等脚台形の性質
1. 1つの底辺の両端の内角が等しい
- 仮定より$\text{AD}=\text{BC}$
- 線分$\text{AE},\text{BF}$は等脚台形$\text{ABCD}$の辺$\text{CD}$またはその延長へおろした垂線なので$∠\text{AED}=∠\text{BFC}=90°$
- 四角形$\text{ABFE}$は長方形なので$\text{AE}=\text{BF}$
このことから$∠\text{ADE}=∠\text{BCF}$です。$\cdots(1)$
$\text{AB}>\text{CD}$のとき、$∠\text{ADE},∠\text{BCF}$はそれぞれ等脚台形$\text{ABCD}$の底辺$\text{CD}$の両端の内角$∠\text{D},∠\text{C}$の外角であり、隣接する外角と内角の和は$180°$なので、
したがって、底辺$\text{AB},\text{CD}$の長さにかかわらず等脚台形には「1つの底辺の両端の内角が等しい」という性質があることがわかります。
なので、等脚台形の性質は最初に得た「1つの底辺の両端の内角が等しい」で十分です。
2. 対角線の長さが等しい
- 仮定より$\text{AD}=\text{BC}$
- 共通の辺なので$\text{CD}=\text{DC}$
- 等脚台形の性質1.より$∠\text{D}=∠\text{C}$
このことから$\text{AC}=\text{BD}$、すなわち等脚台形には「対角線の長さが等しい」という性質があることがわかります。
狭義の等脚台形と同値な四角形
上で分かった狭義の等脚台形の性質をもつ四角形が等脚台形であることがわかれば、それは狭義の等脚台形と同値な四角形であることがわかります。
1. 1つの底辺の両端の内角が等しい狭義の台形
頂点$\text{A},\text{B}$からそれぞれ辺$\text{C},\text{D}$またはその延長へ垂線をおろし、その足を$\text{E},\text{F}$とします。
- 線分$\text{AE},\text{BF}$は台形$\text{ABCD}$の辺$\text{CD}$またはその延長へおろした垂線なので$∠\text{AEC}=∠\text{BFD}=90°$
-
仮定より$∠\text{C}=∠\text{D}$
-
$\text{AB}>\text{CD}$のとき、$∠\text{D},∠\text{C}$は$∠\text{ADE},∠\text{BCF}$の外角なので、外角の定理より
\begin{align*}\angle \text{DAE}&=\angle \text{D}-\angle \text{AED}\\[1em]\angle \text{CBF}&=\angle \text{C}-\angle \text{BFC}\end{align*}ゆえに$∠\text{DAE}=∠\text{CBF}$
-
$\text{AB}<\text{CD}$のとき、$∠\text{D}=∠\text{ADE},∠\text{C}=∠\text{BCF}$なので
\begin{align*}\angle \text{DAE}&=\angle \text{ADE}-\angle \text{AED}\\[1em]\angle \text{CBF}&=\angle \text{BCF}-\angle \text{BFC}\end{align*}ゆえに$∠\text{DAE}=∠\text{CBF}$
-
$\text{AB}>\text{CD}$のとき、$∠\text{D},∠\text{C}$は$∠\text{ADE},∠\text{BCF}$の外角なので、外角の定理より
- 四角形$\text{ABFE}$は長方形なので$\text{AE}=\text{BF}$
このことから、$\text{AD}=\text{BC}$、すなわち狭義の台形$\text{ABCD}$は狭義の等脚台形であることがわかります。
したがって、「1つの底辺の両端の内角が等しい狭義の台形」は狭義の等脚台形と同値な四角形であることがわかります。
2. 対角線の長さが等しい四角形
そこで、1組の対辺が平行である、すなわち狭義の台形であるという条件を追加して「対角線の長さが等しい狭義の台形」について考えます。
$\text{AB}<\text{CD}$であるとして、頂点$\text{A},\text{B}$からそれぞれ辺$\text{CD}$へ垂線をおろし、その足を$\text{E},\text{F}$とします。
- 仮定より$\text{AC}=\text{BD}$
- 線分$\text{AE},\text{BF}$は台形$\text{ABCD}$の辺$\text{CD}$へおろした垂線なので$∠\text{AEC}=∠\text{BFD}=90°$
- 四角形$\text{ABFE}$は長方形なので$\text{AE}=\text{BF}$
このことから$∠\text{ACE}=∠\text{BDF}$です。
- 仮定より$\text{AC}=\text{BD}$
- 共通の辺なので$\text{CD}=\text{DC}$
- 先ほどわかった$∠\text{ACE}=∠\text{BDF}$、すなわち$∠\text{ACD}=∠\text{BDC}$
このことから$\text{AD}=\text{BC}$、すなわち狭義の台形$\text{ABCD}$は狭義の等脚台形であることがわかります。
したがって、「対角線の長さが等しい狭義の台形」は狭義の等脚台形と同値な四角形であることがわかります。
- 脚の長さが等しい狭義の台形(狭義の等脚台形の定義)
- 1つの底辺の両端の内角が等しい狭義の台形
- 対角線の長さが等しい狭義の台形
「脚の長さが等しい広義の台形」には、上で書いたようにすべての平行四辺形が含まれてしまいます。
$\text{AB}//\text{CD}$かつ$∠\text{A}=∠\text{B}$である広義の台形$\text{ABCD}$の内角$∠\text{A},∠\text{B}$に着目したとき、
すなわち、「1つの底辺の両端の内角が等しい広義の台形」に含まれる平行四辺形は長方形のみです。
「対角線の長さが等しい広義の台形」について考えます。
「対角線の長さが等しい平行四辺形」が長方形のみであることから、「対角線の長さが等しい広義の台形」に含まれる平行四辺形は長方形のみです。
したがって、狭義の等脚台形との齟齬を最小にして広義の等脚台形を定義できるのは、「1つの底辺の両端の内角が等しい広義の台形」と「対角線の長さが等しい広義の台形」であることがわかります。
また、広義の等脚台形には、狭義の等脚台形と異なり平行四辺形の1つである長方形が含まれることがわかります。
広義の等脚台形の定義として「対角線の長さが等しい広義の台形」ではなく「1つの底辺の両端の内角が等しい広義の台形」のほうが採用されている理由は、四角形の最も基本的な要素である辺と内角のみで定義を構成できることにあると考察します。