$x^2$の係数が$1$の$x$の2次式
\[\large x^2+px+q\quad(p,q:実数)\]
はどのようにして$x$の1次式同士の掛け算の形まで因数分解すればよいのでしょうか?
$q=0$のとき
$q=0$のとき、$x$の2次式は$x^2+px$となります。
$x^2=x\cdot
x$、すなわち$x^2$は$x$を2つ掛け合わせたものなので、この2次式はすべての項が因数として$x$をもちます。
したがって、$x$を括りだすことができ、
\[\large x^2+px=x(x+p)\]
と因数分解できます。
$p=0$のとき
$p=0$のとき、$x$の2次式は$x^2+q$となります。
この2次式は因数分解公式
\[x^2-a^2=(x+a)(x-a)\quad(a:定数)\]
を利用して因数分解しますが、因数分解後の式は$q$の値によって異なる形となります。
$q$が負の数のとき
$q$が負の数のとき、$q=-q'$($q':$正の数)とおくことができ、
\[x^2+q=x^2-q'\]
と書くことができます。
ここで、$q'$の正の平方根$\sqrt{q'}$をもちいて$q'=\left(\sqrt{q'}\right)^2$と表せるので
\[x^2-q'=x^2-\left(\sqrt{q'}\right)^2\]
となり、先ほどの因数分解公式より
\[x^2-\left(\sqrt{q'}\right)^2=\left(x+\sqrt{q'}\right)\left(x-\sqrt{q'}\right)\]
となる、すなわち
\[\large
x^2+q=\left(x+\sqrt{q'}\right)\left(x-\sqrt{q'}\right)\quad(q'=-q)\]
と因数分解することができます。
$q$が正の数のとき
$q$が正の数のときは、2次式を
\[x^2+q=x^2-(-q)\]
と変形します。$-q$は負の数であり、これの平方根は実数にはないため、実数係数の範囲では因数分解できません。
$-q$の平方根のうち$+$の符号のものは虚数$\sqrt{q}i$となります。
すると、
すると、
\begin{align*}x^2-(-q)&=x^2-\bigl(\sqrt{q}i\bigr)^2\\[0.5em]&=\bigl(x+\sqrt{q}i\bigr)\bigl(x-\sqrt{q}i\bigr)\end{align*}
すなわち、
\[\large x^2+q=\bigl(x+\sqrt{q}i\bigr)\bigl(x-\sqrt{q}i\bigr)\]
となり、複素数係数の範囲での因数分解となります。
$p\neq0$かつ$q\neq0$のとき
$p,q$がともに$0$でないときは、まず因数分解公式
\begin{align*}\large x^2+2ax+a^2&\large=(x+a)^2\\[1em]\large
x^2-2ax+a^2&\large=(x-a)^2\\[1em]\large
x^2+(\alpha+\beta)x+\alpha\beta&\large=(x+\alpha)(x+\beta)&(a,\alpha,\beta:定数)\end{align*}
で因数分解できるかを考えます。
3つの因数分解公式のうちの2つ
$x$の2次式の$x$の項の係数を$2$で割り、$2$乗して定数項と等しくなれば上の因数分解公式を利用できます。
\begin{align*}x^2+2ax+a^2&=(x+a)^2\\[1em]x^2-2ax+a^2&=(x-a)^2\end{align*}
が利用できるかどうかは簡単に判別できます。$x$の2次式の$x$の項の係数を$2$で割り、$2$乗して定数項と等しくなれば上の因数分解公式を利用できます。
残る1つの因数分解公式
すると、
この方法は主に整数係数の範囲で因数分解するときに利用され、連立方程式は$q$の因数分解によって解きます。
\[x^2+(\alpha+\beta)x+\alpha\beta=(x+\alpha)(x+\beta)\]
を利用するには、$x^2+px+q=x^2+(α+β)x+αβ$として、係数と定数項に着目します。すると、
\begin{cases}p=\alpha+\beta\\[0.5em]q=\alpha\beta\end{cases}
という関係があることがわかるので、この連立方程式から$α,β$を求め、因数分解後の式を導き出します。
この方法は主に整数係数の範囲で因数分解するときに利用され、連立方程式は$q$の因数分解によって解きます。
例えば、
因数分解公式より
\[\large x^2-2x-35\]
という2次式を整数係数の範囲で因数分解する場合を考えます。整数係数の範囲なので、$α,β$は整数に限定されます。
因数分解公式より
\[x^2-2x-35=(x+\alpha)(x+\beta)\]
というように因数分解しようとしているので、
\[x^2-2x-35=(\alpha+\beta)x+\alpha\beta\]
より
\begin{cases}-2=\alpha+\beta\\[0.5em]-35=\alpha\beta\end{cases}
という連立方程式が成り立ちます。すなわち、因数分解後の因数となるそれぞれの1次式の定数項$α,β$は足すと$-2$、掛けると$-35$となるような整数であるということです。
ここで、連立されている2つの方程式の右辺はともに交換法則が成り立ち、$α$の値と$β$の値を入れ替えても成り立ちます。(このような右辺の整式のことを対称式といいます。)
これは、この連立方程式の解は1つではなく、$α$の値と$β$の値を入れ替えたもう1つの解があるということなので、解をただ1つにするために、今回は$α>β$という条件を付け加えて求めます。
これは、この連立方程式の解は1つではなく、$α$の値と$β$の値を入れ替えたもう1つの解があるということなので、解をただ1つにするために、今回は$α>β$という条件を付け加えて求めます。
足して$-2$となるような整数の組は無数にあるので、まずは掛けて$-35$となるような整数の組を考えます。このとき、解$(α,β)$の候補として書き出すので、左の整数のほうが大きくなるようにします。
$-35$となるような整数の組は
これらの組の中で、和が$-2$となるのは$(5,-7)$のみです。
$-35$となるような整数の組は
\begin{array}{l}(35,-1),&(7,-5),\\[0.5em](5,-7),&(1,-35)\end{array}
の4組があります。これらの組の中で、和が$-2$となるのは$(5,-7)$のみです。
したがって、$(α,β)=(5,-7)$が連立方程式の解であるとわかり、
\begin{align*}x^2-2x-35&=(x+5)\bigl\{x+(-7)\bigr\}\\[0.5em]\large\therefore
x^2-2x-35&\large=(x+5)(x-7)\end{align*}
と因数分解できることがわかります。
このように、整数係数の範囲であれば掛けて$q$になる数の組が限定されるので、$α,β$が求めやすくなっています。
この方法で$α,β$が求められない、すなわち因数分解できない2次式の場合は次の方法を利用して因数分解します。
上記の方法で因数分解できなかった場合は、平方完成と因数分解公式
\[x^2-a^2=(x+a)(x-a)\]
を利用して因数分解します。
まずは2次式$x^2+px+q$を平方完成します。平方完成とは、2次式を$(x+a)^2$と定数項の和に変形することです。
$x^2+px$の部分に着目すると、$(x+a)^2=x^2+2ax+a^2$より$a=\dfrac{p}{2}$のとき、すなわち$\left(x+\dfrac{p}{2}\right)^2$の展開式$x^2+px+\dfrac{p^2}{4}$の一部であることがわかるので、
\begin{align*}x^2+px+q&=(x^2+px)+q\\[0.5em]&=\left\{\left(x^2+px+\frac{p^2}{4}\right)-\frac{p^2}{4}\right\}+q\\[0.5em]&=\left\{\left(x+\frac{p}{2}\right)^2-\frac{p^2}{4}\right\}+q\\[0.5em]&=\left(x+\frac{p}{2}\right)^2-\frac{p^2}{4}+q\\[0.5em]&=\left(x+\frac{p}{2}\right)^2-\frac{p^2-4q}{4}\end{align*}
と変形することができます。
$x+\dfrac{p}{2}=X$とおくと
\[\left(x+\frac{p}{2}\right)^2-\frac{p^2-4q}{4}=X^2-\frac{p^2-4q}{4}\]
となり、$p=0$のときと似た$X$の2次式になるので、同様の場合分けをして因数分解公式
\[x^2-a^2=(x+a)(x-a)\]
を利用して因数分解します。
$\dfrac{p^2-4q}{4}$が正の数のとき
$\dfrac{p^2-4q}{4}$が正の数のとき、これの正の平方根は$\sqrt{\dfrac{p^2-4q}{4}}=\dfrac{\sqrt{p^2-4q}}{2}$なので、
\[X^2-\frac{p^2-4q}{4}=X^2-\left(\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)^2\]
と書くことができます。
すると、先ほどの因数分解公式より
\[X^2-\left(\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)^2=\left(X+\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)\left(X-\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)\]
となり、$X$を戻すと
\begin{align*}\left(X+\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)\left(X-\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)&=\left\{\left(x+\frac{p}{2}\right)+\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right\}\left\{\left(x+\frac{p}{2}\right)-\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right\}\\[0.5em]&=\left(x+\frac{p}{2}+\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)\left(x+\frac{p}{2}-\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)\\[0.5em]&=\left(x+\frac{p+\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)\left(x+\frac{p-\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)\end{align*}
となります。
したがって、
\[\large
x^2+px+q=\left(x+\frac{p+\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)\left(x+\frac{p-\sqrt{p^2-4q}}{2}\right)\]
と因数分解できます。
$\dfrac{p^2-4q}{4}$が負の数のとき
$\dfrac{p^2-4q}{4}$が負の数のとき、これの平方根のうち$+$の符号のものは$\dfrac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i$なので、
\[X^2-\frac{p^2-4q}{4}=X^2-\left(\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)^2\]
と書くことができます。
すると、先ほどの因数分解公式より
\[X^2-\left(\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)^2=\left(X+\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)\left(X-\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)\]
となり、$X$を戻すと
\begin{align*}\left(X+\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)\left(X-\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)&=\left\{\left(x+\frac{p}{2}\right)+\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right\}\left\{\left(x+\frac{p}{2}\right)-\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right\}\\[0.5em]&=\left(x+\frac{p}{2}+\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)\left(x+\frac{p}{2}-\frac{\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)\end{align*}
となります。
したがって、
\[\large
x^2+px+q=\left(x+\frac{p+\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)\left(x+\frac{p-\sqrt{p^2-4q}}{2}i\right)\]
と因数分解できます。
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