多項式の因数分解とは、1つの多項式を複数の整式(単項式や多項式)の掛け算の形で表すことです。これは、1つの多項式を展開式とみて、展開前の状態に戻すことでもあります。
因数分解の基本
多項式の因数分解は、共通の因数を見つけて括りだすことが基本となります。
因数とは、乗算記号($×$や$\cdot$)で結ばれた数のことです。しかし、単項式においては乗算記号は省略されています。
例えば、単項式$6a$の因数は、$6$と$a$の間の乗算記号が省略されていることから$6$と$a$が因数となります。
他にも、積が$6a$となるような掛け算は
例えば、単項式$6a$の因数は、$6$と$a$の間の乗算記号が省略されていることから$6$と$a$が因数となります。
他にも、積が$6a$となるような掛け算は
\begin{align*}1&\cdot6a\\[0.5em]2&\cdot3a\\[0.5em]3&\times2a\\[0.5em]\frac{6}{5}&\times5a\\[0.5em]\sqrt{6}&\times\sqrt{6}a\\
&\quad\vdots\end{align*}
といったものがあるため、$6a$の因数となるものは無数にあります。
分配法則
逆に、すべての項に共通の因数をもつ多項式は、分配法則によって得られた展開式であると考えることができます。
\begin{align*}\textcolor{red}{a}(b+c)&=\textcolor{red}{a}b+\textcolor{red}{a}c\\[1em](a+b)\textcolor{red}{c}&=a\textcolor{red}{c}+b\textcolor{red}{c}\\[1em]\textcolor{red}{a}(b-c)&=\textcolor{red}{a}b-\textcolor{red}{a}c\\[1em](a-b)\textcolor{red}{c}&=a\textcolor{red}{c}-b\textcolor{red}{c}\end{align*}
によって得られる展開式のすべての項には共通の因数が現れます。逆に、すべての項に共通の因数をもつ多項式は、分配法則によって得られた展開式であると考えることができます。
展開前後の式は互いに等しいので、展開式を展開前の式に戻すことができます。
このとき、多項式を括弧で括り、共通の因数をまとめて括弧の外側に移しているように見えるため、この操作を共通因数の括りだしといいます。
このとき、多項式を括弧で括り、共通の因数をまとめて括弧の外側に移しているように見えるため、この操作を共通因数の括りだしといいます。
展開前の式は複数の整式の掛け算の形になっているため、共通因数の括りだしをすると因数分解ができることがわかります。
(初等の段階において共通因数として考える因数は整数または有理数の係数のものまでで結構です。)
例と公式
例として$ab+a$という多項式を因数分解してみます。
多項式の各項に着目すると、
$ab$は$a\cdot b$より$a$と$b$、
$a$は$1\cdot a$より$1$と$a$と自明な因数で分けることができます。
すると、どちらの項も共通因数として$a$をもっていることがわかります。
多項式の各項に着目すると、
$ab$は$a\cdot b$より$a$と$b$、
$a$は$1\cdot a$より$1$と$a$と自明な因数で分けることができます。
すると、どちらの項も共通因数として$a$をもっていることがわかります。
このことから、$ab+a$は単項式$a$と何らかの多項式を掛け合わせてできた展開式であると考えることができます。
多項式同士の掛け算の展開式であっても共通因数を見つけて括りだすという基本は変わりません。
例として$ab-a-b+1$という多項式を因数分解してみます。
この多項式には$a$または$b$を因数にもつ項が複数あることがわかるので、$a$を因数にもつ項から$a$を括りだすことにしてみます。
この多項式には$a$または$b$を因数にもつ項が複数あることがわかるので、$a$を因数にもつ項から$a$を括りだすことにしてみます。
\begin{align*}ab-a-b+1&=(ab-a)-b+1\\[0.5em]&=a(b-1)-b+1\end{align*}
次に、正負の数の足し算と引き算の性質を利用して以下のように変形します。
\[a(b-1)-b+1=a(b-1)+(-b)+1\]
$a$を因数にもたない項$-b$と$1$それぞれの因数について考えると
\begin{align*}-b&=-1\cdot b\\[0.5em]1&=-1\cdot(-1)\end{align*}
より、共通因数に$-1$があることがわかるので、$-1$を括りだします。
\begin{align*}a(b-1)+(-b)+1&=a(b-1)+\bigl\{(-b)+1\bigr\}\\[0.5em]&=a(b-1)+\bigl\{-1\cdot
b+(-1)\cdot(-1)\bigr\}\\[0.5em]&=a(b-1)+(-1)\bigl\{b+(-1)\bigr\}\\[0.5em]&=a(b-1)+(-1)(b-1)\end{align*}
$b-1=B$とおくと、
\[a(b-1)+(-1)(b-1)=aB+(-1)B\]
となり、共通因数$B$をもつことがわかるので、これを括りだして
\begin{align*}aB+(-1)B&=\bigl\{a+(-1)\bigr\}B\\[0.5em]&=(a-1)B\end{align*}
$B$を戻すと
\[(a-1)B=(a-1)(b-1)\]
したがって、
\[\large ab-a-b+1=(a-1)(b-1)\]
が成り立ち、因数分解することができました。
多項式の特徴によって因数分解の公式として知られているものがあります。これを因数分解公式といい、以下のようなものがあります。
\begin{align*}a^2+2ab+b^2&=(a+b)^2\\[1em]a^2-2ab+b^2&=(a-b)^2\\[1em]a^2-b^2&=(a+b)(a-b)\\[1em]a^3+3a^2b+3ab^2+b^3&=(a+b)^3\\[1em]a^3-3a^2b+3ab^2-b^3&=(a-b)^3\\[1em]a^3+b^3&=(a+b)(a^2-ab+b^2)\\[1em]a^3-b^3&=(a-b)(a^2+ab+b^2)\\[1em]x^2+(a+b)x
+ab&=(x+a)(x+b)\\[1em]x^2-(a+b)x
+ab&=(x-a)(x-b)\\[0.5em]acx^2+(ad+bc)x
+bd&=(ax+b)(cx+d)\\[1em]a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca&=(a+b+c)^2\end{align*}
これらは乗法公式と同じものです。
多項式の項を分割したり、新しく項を付け足すことで共通因数を括りだし、因数分解を行うこともあります。
例えば、上記の因数分解公式の$a^2-b^2$の因数分解があります。
例えば、上記の因数分解公式の$a^2-b^2$の因数分解があります。
この多項式は、そのままでは共通因数が見つからないので、まずは$0$が加えられていると考えます。
\[a^2-b^2=a^2+0-b^2\]
そして、$0$という和をつくりだしたのは$-ab+ab$であると考えます。
\[a^2+0-b^2=a^2+(-ab +ab)-b^2\]
さらに以下のように変形して、共通因数を括りだしていきます。
\begin{align*}a^2+(-ab +ab)-b^2&=a^2+(-ab)+ab-b^2\\[0.5em]&=a^2+(-ab)+ab+(-b^2)\\[0.5em]&=\bigl\{a^2+(-ab)\bigr\}+\bigl\{ab+(-b^2)\bigr\}\\[0.5em]&=a\bigl\{a+(-b)\bigr\}+b\bigl\{a+(-b)\bigr\}\\[0.5em]&=a(a-b)+b(a-b)\\[0.5em]&=aP
+bP&(\because
a-b=Pとおく)\\[0.5em]&=(a+b)P\\[0.5em]&=(a+b)(a-b)\end{align*}
したがって、
\[\large a^2-b^2=(a+b)(a-b)\]
が成り立ち、因数分解することができました。
このように、多項式を因数分解するためには一工夫が必要となる場合もあります。
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