$△\text{ABC}$において、$∠\text{A}=θ$とすると余弦定理
\begin{equation}\text{BC}^2=\text{AB}^2+\text{AC}^2-2\text{AB}\cdot \text{AC}\cos\theta\end{equation}
が成り立ちます。
ではここで、$\vec{\text{AB}},\vec{\text{AC}},\vec{\text{BC}}$というベクトルを考えたとき、余弦定理はベクトルでどのように表すことができるのでしょうか?
3辺の長さ$\text{AB, AC, BC}$はベクトルにおいてはそれぞれベクトルの大きさ$|\vec{\text{AB}}|,|\vec{\text{AC}}|,|\vec{\text{BC}}|$に相当します。
したがって、$(1)$はベクトルの大きさをもちいて
\[|\vec{\text{BC}}|^2=|\vec{\text{AB}}|^2+|\vec{\text{AC}}|^2-2|\vec{\text{AB}}||\vec{\text{AC}}|\cos\theta\]
と書くことができます。
さらに、右辺の最後の項の$|\vec{\text{AB}}||\vec{\text{AC}}|\cos\theta$の部分はベクトルの内積の定義式の形をしているので、最終的に$(1)$は
\[|\vec{\text{BC}}|^2=|\vec{\text{AB}}|^2+|\vec{\text{AC}}|^2-2\vec{\text{AB}}\cdot\vec{\text{AC}}\]
となります。
ここで注意したいのは$∠\text{B}=φ$としたとき、余弦定理
\begin{equation}\text{AC}^2=\text{AB}^2+\text{BC}^2-2\text{AB}\cdot \text{BC}\cos\varphi\end{equation}
が成り立つのですが、だからといって$(1)$のときと同様に
ベクトルの大きさをもちいると
としてはいけないということです。
\[|\vec{\text{AC}}|^2=|\vec{\text{AB}}|^2+|\vec{\text{BC}}|^2-2|\vec{\text{AB}}||\vec{\text{BC}}|\cos\varphi\]
となるから、ベクトルの内積をもちいて
\[|\vec{\text{AC}}|^2=|\vec{\text{AB}}|^2+|\vec{\text{BC}}|^2-2\vec{\text{AB}}\cdot\vec{\text{BC}}\]
どこに問題があるかというと、$\cos\varphi$の部分にあります。
$\vec{\text{AB}}$と$\vec{\text{BC}}$のなす角の大きさを調べてみると$φ$ではなく$180°-φ$なので、そのまま$\vec{\text{AB}}\cdot\vec{\text{BC}}$とすることはできません。
そこで、以下のように変形します。
これが正しい式となります。
\[\vec{\text{AB}}\cdot\vec{\text{BC}}=|\vec{\text{AB}}||\vec{\text{BC}}|\cos(180°-\varphi)\]
であり、三角関数の性質より$\cos(180°-x)=-\cos x$であることから
\[\vec{\text{AB}}\cdot\vec{\text{BC}}=-|\vec{\text{AB}}||\vec{\text{BC}}|\cos\varphi\]
したがって、
\begin{align*}|\vec{\text{AC}}|^2&=|\vec{\text{AB}}|^2+|\vec{\text{BC}}|^2-2|\vec{\text{AB}}||\vec{\text{BC}}|\cos\varphi\\[0.5em]&=|\vec{\text{AB}}|^2+|\vec{\text{BC}}|^2+2\bigl(-|\vec{\text{AB}}||\vec{\text{BC}}|\cos\varphi\bigr)\\[0.5em]\therefore&|\vec{\text{AC}}|^2=|\vec{\text{AB}}|^2+|\vec{\text{BC}}|^2+2\vec{\text{AB}}\cdot\vec{\text{BC}}\end{align*}
このように、余弦定理をベクトルで表すときはベクトルの向きを見てベクトルのなす角によく注意する必要があります。
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