アルベロス図形とは、上図のように直線に関して同じ側に円弧がある3つの半円の弧に囲まれた図形のことです。
そして、上図のようにアルベロス図形$\text{ABC}$を小さい2つの半円の交点$\text{D}$を通る直径$\text{AB}$に垂直な直線$\text{CD}$で分割してできる図形$\text{ACD, BCD}$それぞれの内接円のことを
アルキメデスの双子円といいます。双子円という名の通り半径が等しく、半円$\text{AC}$の半径を$a$、半円$\text{BC}$の半径を$b$とすると
\[\frac{ab}{a+b}\]
と表されます。
これが成り立つことを座標平面をもちいて確かめてみます。
$0$以上の実数$a,b$をもちいて、原点を通る半径$a$、中心$\text{P}(-a,0)$の円と原点を通る半径$b$、中心$\text{Q}(b,0)$の円を描きます。これらがアルベロス図形を形づくる小さい2つの半円のもととなる円です。
円$\text{P, Q}$それぞれの円の方程式は
\begin{array}{l}\text{P}:&(x+a)^2+y^2=a^2\\[1em]\text{Q}:&(x-b)^2+y^2=b^2\end{array}
となります。
これらの円と内接する円$\text{R}$の半径は$a+b$、中心は$(b-a,0)$となるので円の方程式は
\[\text{R}:\quad\bigl\{x-(b-a)\bigr\}^2+y^2=(a+b)^2\]
となります。
円$\text{P}$の原点でないx軸との交点を$\text{A}$、円$\text{Q}$の原点でないx軸との交点を$\text{B}$とすると、x軸に対称な1組のアルベロス図形$\text{OAB}$ができるのですが、ここでは領域$y\geqq0$内にあるほうのアルベロス図形$\text{OAB}$に着目します。
図形$\text{OAC}$の内接円の半径を求める
弧$\text{AB}$とy軸との交点を$\text{C}$とし、図形$\text{OAC}$の内接円$\text{X}$について考えます。
図形$\text{OAC}$はy軸、円$\text{P, R}$に囲まれた図形であることから、内接円$\text{X}$について以下のようにいうことができます。
- 円$\text{X}$はy軸と接する。
- 円$\text{X}$は円$\text{P}$と外接している。
- 円$\text{X}$は円$\text{R}$と内接している。
これらをもちいて円$\text{X}$の半径を求めます。
1. 円$\text{X}$はy軸と接する
円$\text{X}$の中心を$(s,t)$とおくと円$\text{X}$の半径は点$(s,t)$とy軸の距離に等しいので$|s|$となります。円$\text{X}$は領域$x\leqq0$内に存在するので$s\leqq0$より$|s|=-s$です。
このことから円$\text{X}$の中心は少なくとも直線$x=s\
\cdots(1)$上に存在しているといえます。
2. 円$\text{X}$は円$\text{P}$と外接している
円$\text{X}$は円$\text{P}$と外接しているので、中心間の距離は$a+|s|=a-s$となります。
このことから円$\text{X}$の中心は少なくとも半径$a-s$の円$\text{P}$の同心円、すなわち円$(x+a)^2+y^2=(a-s)^2\
\cdots(2)$上に存在するといえます。
3. 円$\text{X}$は円$\text{R}$と内接している
円$\text{X}$は円$\text{R}$と内接しているので、中心間の距離は$a+b-|s|=a+b+s$となります。
このことから円$\text{X}$の中心は少なくとも半径$a+b+s$の円$\text{R}$の同心円、すなわち円$\bigl\{x-(b-a)\bigr\}^2+y^2=(a+b+s)^2\
\cdots(3)$上に存在するといえます。
円$\text{X}$の中心は$(1),(2),(3)$の交点にあるので、これらを連立して解きます。
$(3)-(2)$より
\begin{align*}\bigl\{x-(b-a)\bigr\}^2-(x+a)^2&=(a+b+s)^2-(a-s)^2\\[0.5em]\Bigl[\bigl\{x-(b-a)\bigr\}+(x+a)\Bigr]\Bigl[\bigl\{x&-(b-a)\bigr\}-(x+a)\Bigr]\\
=\bigl\{(a+b+s)+(a-s)\bigr\}&\bigl\{(a+b+s)-(a-s)\bigr\}\\[0.5em](2x+2a-b)(-b)&=(2a+b)(b+2s)\\[0.5em]2s(2a+b)+2bx&=-4ab\end{align*}
$(1)$を代入して
\begin{align*}2s(2a+b)+2bs&=-4ab\\[0.5em]4s(a+b)&=-4ab\\[0.5em]s&=-\frac{ab}{a+b}\end{align*}
したがって、円$X$の中心のx座標は$-\dfrac{ab}{a+b}$なので、半径は$\dfrac{ab}{a+b}$であることがわかります。
図形$\text{OBC}$の内接円の半径を求める
次は図形$\text{OBC}$の内接円$\text{Y}$について考えます。
内接円$\text{X}$のときと同様に、図形$\text{OBC}$はy軸、円$\text{Q, R}$に囲まれた図形であることから以下のようにいうことができます。
- 円$\text{Y}$はy軸に接している。
- 円$\text{Y}$は円$\text{Q}$と外接している。
- 円$\text{Y}$は円$\text{R}$と内接している。
これらをもちいて円$\text{Y}$の半径を求めます。
1. 円$\text{Y}$はy軸に接している
円$\text{Y}$の中心を$(u,v)$とおくと円$\text{Y}$の半径は$|u|$となります。円$\text{Y}$は領域$x\geqq0$内に存在するので$|u|=u$となります。
このことから円$\text{Y}$は少なくとも直線$x=u\
\cdots(4)$上に存在しているといえます。
2. 円$\text{Y}$は円$\text{Q}$と外接している
円$\text{Y}$は円$\text{Q}$と外接しているので、中心間の距離は$b+u$となります。
このことから円$\text{Y}$は少なくとも半径$b+u$の円$\text{Q}$の同心円、すなわち円$(x-b)^2+y^2=(b+u)^2\
\cdots(5)$上に存在しているといえます。
3. 円$\text{Y}$は円$\text{R}$と内接している
円$\text{Y}$は円$\text{R}$と内接しているので、中心間の距離は$a+b-u$となります。
このことから円$\text{Y}$は少なくとも半径$a+b-u$の円$\text{R}$の同心円、すなわち円$\bigl\{x-(b-a)\bigr\}^2+y^2=(a+b-u)^2\
\cdots(6)$上に存在しているといえます。
円$\text{Y}$の中心は$(4),(5),(6)$の交点にあるので、これらを連立して解きます。
$(6)-(5)$より
\begin{align*}\bigl\{x-(b-a)\bigr\}^2-(x-b)^2&=(a+b-u)^2-(b+u)^2\\[0.5em](2x+a-2b)\cdot
a&=(a+2b)(a-2u)\\[0.5em]2u(a+2b)+2ax&=4ab\end{align*}
$(4)$を代入して
\begin{align*}2u(a+2b)+2au&=4ab\\[0.5em]4u(a+b)&=4ab\\[0.5em]u&=\frac{ab}{a+b}\end{align*}
したがって、円$\text{Y}$の中心のx座標と半径は$\dfrac{ab}{a+b}$であることがわかります。
以上より、アルキメデスの双子円である円$\text{X, Y}$の半径はともに$\dfrac{ab}{a+b}$であることを確かめることができました。
双子円の中心のy座標
本記事の目的はアルキメデスの双子円の半径を求めることなので、その過程で円$\text{X, Y}$のx座標のみ求めましたが、さらにy座標も求めてみます。
円$\text{X, Y}$の中心の座標はそれぞれ$\left(-\dfrac{ab}{a+b},t\right),\left(\dfrac{ab}{a+b},v\right)$、円$\text{R}$との中心距離はどちらの円も$a+b-\dfrac{ab}{a+b}$であることを利用すると以下のように求められます。
円$\text{X}$のy座標
\begin{align*}\sqrt{\left\{(b-a)-\left(-\frac{ab}{a+b}\right)\right\}^2+t^2}&=a+b-\frac{ab}{a+b}\\[0.5em]\left\{(b-a)+\frac{ab}{a+b}\right\}^2+t^2&=\left(a+b-\frac{ab}{a+b}\right)^2\\[0.5em](b-a)^2+\frac{2ab(b-a)}{a+b}+t^2&=(a+b)^2-2ab\\[0.5em]t^2&=2ab-\frac{2ab(b-a)}{a+b}\\[0.5em]&=2ab\left(1-\frac{b-a}{a+b}\right)\\[0.5em]&=\frac{4a^2b}{a+b}\\[0.5em]t&=2a\sqrt{\frac{b}{a+b}}&(\because
t\geqq0)\end{align*}
円$\text{Y}$のy座標
\begin{align*}\sqrt{\left\{(b-a)-\frac{ab}{a+b}\right\}^2+v^2}&=a+b-\frac{ab}{a+b}\\[0.5em]\left\{(b-a)-\frac{ab}{a+b}\right\}^2+v^2&=\left(a+b-\frac{ab}{a+b}\right)^2\\[0.5em](b-a)^2-\frac{2ab(b-a)}{a+b}+v^2&=(a+b)^2-2ab\\[0.5em]v^2&=2ab+\frac{2ab(b-a)}{a+b}\\[0.5em]&=2ab\left(1+\frac{b-a}{a+b}\right)\\[0.5em]&=\frac{4ab^2}{a+b}\\[0.5em]v&=2b\sqrt{\frac{a}{a+b}}&(\because
v\geqq0)\end{align*}
したがって、円$\text{X, Y}$の中心の座標はそれぞれ以下のようになります。
\begin{align*}\text{X}:&\left(-\frac{ab}{a+b},2a\sqrt{\frac{b}{a+b}}\right)\\[1em]\text{Y}:&\left(\frac{ab}{a+b},2b\sqrt{\frac{a}{a+b}}\right)\end{align*}
円$\text{R}$の半径を$1$、円$\text{P}$の半径を$a$とすると、円$\text{Q}$の半径は$1-a$となります。
すると、上記の各円の方程式、中心、半径は$b=1-a$を代入して以下のようになります。
\begin{align*}\text{P}:&(x+a)^2+y^2=a^2\\ &中心:\ (-a,0)\quad半径:\
a\\[1em]\text{Q}:&(x-1+a)^2+y^2=(1-a)^2\\ &中心:\ (1-a,0)\quad半径:\
1-a\\[1em]\text{R}:&(x-1+2a)^2+y^2=1\\ &中心:\ (1-2a,0)\quad半径:\
1\\[1em]\text{X}:&\bigl\{x+a(1-a)\bigr\}^2+(y-2a\sqrt{1-a})^2=a^2(1-a)^2\\
&中心:\ \bigl(-a(1-a),2a\sqrt{1-a}\bigr)\quad半径:\
a(1-a)\\[1em]\text{Y}:&\bigl\{x-a(1-a)\bigr\}^2+\bigl\{y-2(1-a)\sqrt{a}\bigr\}^2=a^2(1-a)^2\\
&中心:\ \bigl(a(1-a),2(1-a)\sqrt{a}\bigr)\quad半径:\
a(1-a)\end{align*}
リンク:Twin circles - Wikipedia
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